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2015年11月18日

【86歳、独身未婚男性】民法上の委任契約と遺言執行人として

86歳の男性からの依頼です。

この方は、認知症ということではなく、若い頃の結核の症状を長期入院とリハビリで恢復されたのですが、それこそ「養生」には相当、気を遣って生きてこられたという方です。そんな事情で結婚歴がなくお子様がおられませんでした。

お会いしたときは、医者に余命1年といわれ心臓の具合が悪く一人で外出ができず、病院に行くのも近所にお住まいだった妹さんが付き添っておられたのです。

隔日にはヘルパーさんが来ておられ、銀行・役所などのご用やお兄さん(Sさん)の必要な買い物などは、その妹さんが献身的に尽くしておられました。

ご自身の終末を予期されたのでしょう。この際、確実な遺言公正証書でということで翌年1月に公証役場に車椅子でお出かけいただき、作成されたのです。

その時の「遺言執行者」をわたしに指名していただきました。


それから、Sさんの財産管理といって、年金や株の配当金と普通預金の収支状況、日常の伝票の整理、現金出納帳の記帳などの業務をわたしが担当することになったのです(この場合、法律的には民法上の委任契約といいます)。

だって、Sさんは頭はしっかりしておられ、判断能力は十分にあり認知症という診断ではありませんので成年後見制度を利用した契約ではありません。

そんなことで、この方の身体上の監護も含めて、財産の状況と金銭の収支報告のためにご自宅に毎月、訪問しておりました。

その年の4月、桜の満開の頃です。「Sさん、今一度行きたいところはありませんか?」とお尋ねしました。

「う~ん、特にないけどな~」とのことだったのですが、「奈良の斑鳩に、ポックリ寺というのがあって、そこにお参りするとポックリ亡くなることができるそうですよ」

と失礼を省みず申し上げたところ、「ぜひ、行ってみたい」とのこと。なぜか、下着を持っていって「苦しまずに死ぬ」ことを祈願するのです。

ことの他、熱心にお参りをしておられました。清々しいお顔をされていました。満開の花の鑑賞もこれが最後との心境だったのでしょう。遠い彼方を見るような眼差しと何かを回想するようなお姿がとても印象的でした。

その帰途、レストランに入って昼食ということになったのですが、Sさんは、普段あまり食べさせてもらっていないといわれる「かつ丼」を所望されたのです。

「え~、大丈夫ですか? そんな消化の悪いものを」と同行のヘルパーさんたちは反対したのですが、わたしは、「食べたいものは食べてもらいましょう」と言って(ときめき・ときめけばビールを飲んだっていいのが。と、帯津先生の本にもあったからです)注文し、「食べたかったんや。最期の晩餐や!」とSさんは喜びながら三分の一ほどお口に入れられました。

介護タクシーでご自宅までお送りしたのですが、玄関前で「黑田さん、連れていってくれてありがとう」と涙ながらにお礼の言葉を言っていただきました。

80有余年の終末期のこのような方の苦労話しをお聞きしたり、、一人ひとりの生きざまを通しての人生観や死生観といったものにも触れ、時には宗教的なお話しができることは大変に勉強になり、わたしを弟のように思ってくださることに仕事を離れて生きがいを感じる瞬間でした。

その年の10月に本当にポックリ亡くなったと妹さんからお聞きしました。

もちろん葬儀に参列させていただき、ポックリ寺に行ったときに撮影した笑顔の遺影に向かって話しかけたりいたしました。

例によって「般若心経」を唱えておりました。49日の法要後、遺言公正証書の内容に基づき各相続人に対し遺産分割の手続きに入ったのです。



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Posted by 黑田よしひろ at 16:12 │事例